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千葉地方裁判所松戸支部 平成10年(ワ)610号 判決 1999年5月25日

原告 木村博次

右訴訟代理人弁護士 瑞慶山茂

同 大川芳範

被告 A野太郎

右訴訟代理人弁護士 金子正志

同 勝俣幸洋

同 上條司

主文

一  被告は、原告に対し、金一六八万一八〇八円及びこれに対する平成一〇年一月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は、原告に対し、金二八五万六三二三円及びこれに対する平成一〇年一月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、被告に対し、交通事故(追突事故―不法行為)に基づく損害賠償を請求した事案である。

(争いのない事実)

一  交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

1 日時 平成一〇年一月一九日午後七時二〇分ころ

2 場所 埼玉県三郷市戸ヶ崎二四五八番地

3 加害車両 普通乗用自動車(習志野《省略》)

運転者 被告

4 被害車両 普通貨物自動車(足立《省略》)

運転者 原告

5 事故の態様 被害車両が交差点で赤信号のため停車していたところ、後方を走行していた加害車両が、速度を落とさないまま進行したため、被害車両に衝突し、そのため、被害車両が、前方に停車中の車両に衝突した。

二  原告の受傷

原告は、本件事故により頸部捻挫、腰部捻挫、右膝部打撲、右肩部打撲の傷害を受けた。

三  責任原因

原告は、交差点手前で前方車に続いて信号待ちをしていたところ、被告が運転する加害車両が速度を落とさないまま進行し、原告の車両(被害車両)に衝突したものであるから、本件事故は、被告の前方注視義務違反の過失によって発生したものであり、被告は、民法七〇九条の不法行為者として、本件事故により原告が被った損害を賠償する責任がある。

第三争点

本件の争点は、本件事故により原告が被った損害の内容・範囲である。

一  原告の主張

原告が本件事故により被った損害は、次のとおりである。

1  通院慰謝料 七〇万円

2  治療費 一万〇〇一〇円 (既払分を除く。)

3  交通費等 七二二〇円 (タクシー代、レッカー車の有料道路通行料金)

4  休業損害 七六万一六八八円

給与一日分一万〇七二八円×欠勤日数七一日=七六万一六八八円

5  物損(破損分) 一一万七七四〇円

品名 購入価格

(1) レーダー探知機スーパーキャットE―九一〇 一万九八〇〇円

(2) 車載テレビ カシオTV―M七〇〇 二万九八〇〇円

(3) 車載ビデオ 一万九八〇〇円

(4) ソーラー換気扇二機インターソーラー 一万一九六〇円

(5) カーアンテナシステムキット 九八〇〇円

(6) AV交換コード 二八〇〇円

(7) 四連ソケットアダプター 三九八〇円

(8) ミサキデジタル体重計 一万九八〇〇円

6  被告の本件事故時及びその後の対応に対する慰謝料 一〇〇万円

(1) 被告は、本件事故発生時、一旦は現場から逃走を図ろうとしたばかりか、本件事故によって車内に閉じ込められた原告を救助しようともせず、逆に、原告は、被告車(加害車両)に同乗していた女性から、被告が原告車(被害車両)をどかせろと言っているなどと言われた。

(2) 更に、被告は、本件事故発生後今日に至るまで、一切見舞いや謝罪がなく、原告は、著しい精神的苦痛を被った。

(3) 以上によって原告が被った精神的苦痛を慰謝するには、金銭的に評価すると、一〇〇万円を下ることはない。

7  弁護士費用 二五万九六六五円

(1) 原告が本件事故自体によって被った損害は、1ないし6の合計金二五九万六六五八円である。

(2) 原告は、本訴提起にあたり、原告訴訟代理人に対し、弁護士費用として二五万九六六五円を支払う旨約した。

8  損害の合計金 二八五万六三二三円

二  被告の主張

1  原告の接骨院への通院は、医師の指示によるものではなく、当初の病院における治療内容からしても、通院治療の必要性と相当性があったのか疑問がある。また、原告の傷病名、診断内容、治療経過からして、原告の症状は、遅くとも平成一〇年三月下旬には固定していたものと考えられる。したがって、原告主張の通院慰謝料七〇万円は過剰である。

2  原告の休業損害についての休業日数として相当と認められるのは、平成一〇年一・二月の実通院日数三二日間と三月の実通院日数二四日の半分である一二日間の合計四四日間である。

3  本件事故により原告車両の備品が損傷を受けたとの点については、これらの備品の全てが使用不能になる程の衝撃があったとは考えられない。また、何故に購入価格と同額の損害となるのかも不明である。

4  被告の本件事故時及びその後の対応に対する慰謝料については、被告自身、二週間近く動けなかったこともあるが、原告に見舞いの電話を入れているし、治療費(三郷順心病院分五万四二一〇円、宇佐見接骨院分五四万八九五〇円・合計金六〇万三一六〇円)の支払い等誠実に対応してきている。

第四争点に対する判断

本件事故により原告が被った損害の内容・範囲は、争いのない事実、《証拠省略》によれば、以下のとおりと認められる。

1  通院慰謝料 六〇万円

被告は、加害車両を運転して、時速約四〇キロメートルで進行するに当たり、同乗者との会話に気を奪われ脇見をし、前方注視を欠いたため、交差点で赤信号のため停車していた原告の被害車両に自車を衝突させて原告車を前方に押し出し、その前方に停止していた普通貨物自動車に衝突させ、原告車の前部・後部に損傷を与え、かつ、原告に対し、頸部捻挫、腰部捻挫、右膝部打撲、右肩部打撲の傷害を与えたものであり、本件事故の衝撃は相当な程度のものであったと認められる。

原告は、本件事故による受傷のため、三郷順心病院に三日間(治療実日数二日)、宇佐見接骨院に九九日間(治療実日数八〇日)、通院して治療を受けた。本件事故の衝撃の程度、原告の傷病名、診断・治療内容、治療経過からすると、本件事故と右の通院治療との間には相当因果関係があるものと認められる。

2  治療費 一万〇〇一〇円 (既払分を除く。)

3  交通費等 七二二〇円 (タクシー代、レッカー車の有料道路通行料金)

4  休業損害 七六万一六八八円

給与一日分一万〇七二八円×欠勤日数七一日=七六万一六八八円

原告は、友和産業株式会社に勤務し、平成九年一〇月から一二月まで給与として合計金九八万七〇〇〇円の収入を得ていた。これを一日に換算すると一万〇七二八円になる。原告は、本件事故の翌日である平成一〇年一月二〇日から同年三月三一日まで七一日間、本件事故による受傷のため欠勤を余儀なくされ、その間の給与収入を得られなかった。

5  物損(破損分) 五万二八九〇円

品名 購入価格

(1)  レーダー探知機スーパーキャットE―九一〇 一万九八〇〇円

(2)  車載テレビ カシオTV―M七〇〇 二万九八〇〇円

(3)  車載ビデオ 一万九八〇〇円

(4)  ソーラー換気扇二機インターソーラー 一万一九六〇円

(5)  カーアンテナシステムキット 九八〇〇円

(6)  AV交換コード 二八〇〇円

(7)  四連ソケットアダプター 三九七〇円

(8)  ミサキデジタル体重計 一万九八〇〇円

本件事故により右(1)ないし(3)、(5)ないし(8)の備品が損傷を受け、使用不能となった。(4)のソーラー換気扇二機は使用可能であるので、損害から除き、その余の備品は、中古品であるので、購入価格(合計金一〇万五七八〇円)の半額五万二八九〇円を損害と認める。

6  原告の通院慰謝料以外の精神的苦痛に対する慰謝料 一〇万円

被告は、本件事故発生後、事故による衝撃で被告車内で身動きがとれなかったため、自ら原告の様子を見に行くことができず、一旦被告車を横の駐車スペースに移動させたが、現場から逃走を図ろうとしたものではなかった。被告は、事故の翌日に原告に電話を入れており、また、親族や保険会社等を通じて原告の治療費(三郷順心病院分五万四二一〇円、宇佐見接骨院分五四万八九五〇円・合計金六〇万三一六〇円)を支払うなどの対応をし、本件事故(業務上過失傷害罪)で罰金一〇万円に処せられている。しかし、被告自身が本件事故後に原告に直接面会して謝罪をしたり、本訴の和解手続期日に出頭して原告に陳謝するようなことはなかった。被告は、結局、本訴において陳述書を提出しただけで、本訴の期日には一度も出頭しなかった。被告には本件事故後の原告に対する対応において誠意に欠ける点があった。このような点を総合考慮すると、原告の通院慰謝料以外の精神的苦痛に対する慰謝料は一〇万円が相当である。

7  弁護士費用 一五万円

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告が被告に対して本件事故による損害として賠償を求めうる弁護士費用の額は、金一五万円とするのが相当である。

第五結論

よって、原告の本件請求は、一部理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 小野剛)

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